謎の掛け声
入社当初、この会社の現業職の人達は 独特な掛け声で何かをしてることに気づきました。
敷地内からおっちゃん達が何かを叫んでいるのがたびたび聞こえたからです。
「さおうろあらk;lあ!!!!」
「さやおるあふぁぃdぱい!!!!」
「ぁsじょあうおあjlk!!!!」
「さyとあうたじょdすらl!!!!」
こんなかんじの大声の早口で何かを何度も連呼しているようでした。
地域の言葉でしょうか。何度聞こえても、
なんて言っているのか分かりませんでした。
だんだん会社に慣れて、周りのことが分かってくるとその掛け声が労働時間ではなく休み時間に発されていることや、全員の掛け声ではなく、叫んでいるのは一人だったことが分かってきました。
その正体
ついに、それの正体が分かったのは勤めて2年目のことです。
その儀式が始まるところにたまたま私が居合わせました。
それは単なるじゃんけんの掛け声でした。
一番元気のいいおっちゃんが、めっちゃ早口で最初はグーじゃんけんポンとまくしたてるように連呼していたものだと分かりました。
こう言っていたのです。
「サイショハグージャンケンポン!!」
「サイショハグージャンケンポン!!」
「サイショハグージャンケンポン!!」
そうしてみんなでじゃんけんして、負けた人が皆の缶コーヒー奢りみたいなことをしていたのでした。
現業職の人というのはだいたい、酒飲み・タバコ吸い・パチンコ好きです。
そんなの偏見だろ〜と思うかもしれませんが、
うちの会社の人たちは本当にそうだっただけです。
また、この一番元気なおっちゃんはいつもこんなことを言っていました。
「俺は他の人とはひと味違う。パチンコもジャンケンも独自の理論でやっている」
「少ないお小遣いなのにパチンコはほぼ皆勤賞。それはなぜかを考えてほしい。」
「それは勝率がいいからに他ならない」
私は詳しくないのでよくわかりませんでしたが、これがパチ好きの人の共通心理なんだな、などと思いました。
ここからは最近の話
私は、上記のおっちゃんとじゃんけん対決をしました。
「 ぐ り こ 」とか「 ち よ こ れ い と 」とか、勝ったやくで進める歩数が変わるあのゲームです。
自称強者VS事務員
戦いの初めに、おっちゃんはあまりにも「最初はグーだぞ」「最初はグーだぞ」と念押ししました。
(何を言っているんだ!このオッちゃんは!)
(当たり前でしょ!)
(これがジェネレーションギャップというやつか!)
(おっちゃんは『最初はグー』が珍しい世代なんだな。)
そんなことを考えていたら私は間違えて『最初はチョキ』を出してしまいました。
仕切り直しました。
~最初はグージャンケンポン~
おあいこ
~最初はグージャンケンポン~
私負け おっちゃん勝ち
~最初はグージャンケンポン~
私負け おっちゃん勝ち
あっという間に相手の手が見えないくらい差がつきました。
(調子良いな!このおっちゃん)
私とのジャンケンでボロ勝ちし終えたおっちゃんはこう言いました。
「『最初はグー』の後グーを出すやつはまずいない。9割チョキかパー」
「なのでチョキを出していればほぼ負けない」
『あいこでしょ』からは使えないじゃないか!実用性のない技だ!と思いました。
がしかし、
思い返せば、おっちゃんとの対決で『あいこでしょ』って全く聞きませんでした。
もしも、2回も3回目も『あいこでしょ』ではなく『最初はグー』で始めたら?
1回目でチョキを出した人も、
2回目はパーを出すかもしれない。
3回目はパーを出すかもしれない。
自分がチョキを出しつづけていれば、相手がパーを選んだ瞬間に自分が勝ちになるのです。
私はグー・チョキ・パーをバランスよく出していたつもりが、
実際はパーかチョキしか出していなかったのです。
ジャンケンは等しく勝つも負けるも1/3と信じ切っていたため策を練ったことがありませんでした。
つまり、
じゃんけん必勝法とは
・己がじゃんけんの音頭をとる
・ちょきを出し続ける
・エンドレス最初はグー
この三点です。
おっちゃんは缶コーヒーじゃんけんの勝率は8割だと言っていました。
真の正体
私は、再度、入社当初不思議に思ったの謎の掛け声を思い出しました。
点と点がつながり線になりました。
あの掛け声の「真の正体」は、
この「じゃんけん必勝法」を既に確立していたおっちゃん1人が、
本来なら、「あ い こ で しょ 」が入るはずの短い拍に「最初はグーじゃんけんポン」という語句の全てを詰め込んだ結果だったのです。
私にはできない真似です。
「あいこでしょ」をどわすれした人としてなら、私でも使えそうです。